2013年12月5日木曜日

経営者保証に関するガイドラインは民法改正の議論に影響するか?

平成25年12月5日、経営者保証に関するガイドライン研究会により、「経営者保証に関するガイドライン」が公表された。
http://www.zenginkyo.or.jp/news/2013/12/05140000.html

本ガイドラインは、中小企業に対する金融資産を有する金融機関等を対象債権者とし、(1)保証契約の主たる債務者が中小企業 (2)保証人が個人であり、主たる債務者である中小企業の経営者であること (3)主たる債務者と保証人の双方が弁済に誠実であり、財産状況等を適時適切に開示していること (4)主たる債務者及び保証人が反社会的勢力でないこと、といった要件を満たしている場合に適用されると記載されている。

民法改正でも保証のは論点になっており、会社の保証人となる人は経営者に限定してはどうか、ということが議論されている。
このガイドラインは、「経営者」が保証をした場合の保証契約を対象とするものであるから、ガイドラインができたからといって、民法改正において保証が論点から落ちるということはないはずである。相互補完的なもの、と捉えるべきだと思う。

なお、本ガイドラインの適用開始日は、平成26年2月1日で、保証債務の履行前であれば、契約日が平成26年2月1日以前であっても適用される。既に履行がなされた保証債務について遡及的に適用されることはない、とされている。

2013年8月15日木曜日

債権譲渡 対抗要件

民法では、指名債権譲渡の対抗要件は、債務者への通知または債務者の承諾で、通知または承諾に確定日付のある証書によらなければ第三者に対抗することができない、とされている。

確定日付のある証書を作成しても、それが債務者に到達した時点が証明困難であるのに、到達の先後で優劣が決まるということと、債務者をインフォメーションセンターとする制度とされているが、債務者は回答義務を負っていないため、現実には公示機能がないのではないか、というのが改正の理由とされている。

なお、母法であるフランス法では、公務員による送達が前提とされており、到達時の証明ができるようになっていたが、立法時の日本の事情により公務員による送達の制度は作られなかったとのことである。

改正案では、甲案と乙案が提示されている。
甲案は、金銭債権の譲渡については第三者対抗要件として登記を要求し、金銭債権以外の債権の譲渡については、譲渡の事実を証する書面に確定日付を付すことを要求する案である。

債務者に対する権利行使要件としては、登記の内容を証する書面または、確定日付を付した譲渡書面を交付して通知、または、譲渡人から債務者への通知、とされている。

乙案は、債務者の承諾を第三者対抗要件とはしない案である。承諾を強いられる負担がなくなるとの説明がなされている。

さらに別案として、確定日付ある譲渡証書を作成し、その先後で優先関係を決するという案もある。これはドイツ法にならうものであり、現行法で公示機能が不十分であることを踏まえ、債権譲渡について公示することを断念するものと説明されている。
先後関係についての証明が容易であり、すっきりとはしている。難点は、現在いくらかでもある公示機能がまったくなくなることである。

登記と通知の両制度が併存した場合、いずれが優先するのか、という問題が生じる。登記が優先しないと、登記したときに譲渡されているかどうかわからないので登記をする意味がない。しかし、登記が優先するとすると、通知では不安であって意味がない。併存すると登記も通知も使いにくいということになる。

甲案について、道垣内教授は、登記制度を作るのであれば、登記に一元化すべきであり、通知による権利行使要件を残すべきではないと主張される。

これに対し、元請けの一括承諾により、下請けが元請けに対する債権を譲渡するという実務があり、登記に一元化すると登記の手間が煩雑であるとの反論があったが、道垣内教授からは、登記の手間に関してはそれほどの問題ではないとの再反論があった。

いずれにせよ、個人の債権譲渡の登記制度の構築という問題がクリアされなければ、登記せよとのルールは作れない。
登記制度のポイントとしては、オンラインによる登記申請、債権特定のシステム(極度額、担保権)、アクセスの容易さ、が挙げられている。


2013年8月14日水曜日

債権譲渡禁止特約

現行民法では、債権譲渡禁止特約があれば債権の譲渡はできないが、禁止特約は善意の第三者に対抗できない、とされている。

改正提案では、債権譲渡禁止特約があっても、一定の制限があるほか、債権譲渡は有効である、とされている。
一定の制限とは、譲受人が悪意、重過失である場合は、債務者は譲受人に対して履行を拒絶し、譲渡人に対して履行をし、その履行をもって債権の消滅を譲受人に対抗できる、とするものである。

ただし、さらに、一定の事由がある場合には、譲受人が悪意、重過失であっても債務者は特約をもって対抗できない、とされている。
一定の事由とは、債務者が承諾した場合、債務者が履行遅滞にあり催告をしても履行しなかった場合、譲受人が第三者対抗要件を備えた後に譲渡人に破産手続開始等の決定があった場合、譲受人が第三者対抗要件を備えた後に譲渡人の債権者が当該債権を差し押さえた場合、とされている。
 
 現行法に比べてかなり複雑である。

 この改正案に対して、石田教授は、
①ルールの構造が複雑で理解が難しい、
②弁済の相手方を固定するということだけでよいのか、
③相手方固定の利益は、履行遅滞にあってもなくても変わらない、むしろ遅滞のときに相手方を固定する利益があるのではないか、と批判される。

 また、道垣内教授は、改正案は最高裁判決の延長線上にある、としつつ、この提案は本当に中小企業の金融の円滑化に資するのか、民法343条は譲渡できないものは質権の目的とならないとしているが、この規定も併せて議論をすべきではないのか、との意見を出された。

 道垣内教授が、中小企業の金融の円滑化に資するのか、との疑問を提示された理由は、債権譲渡を有効として扱うと中小企業が取引先の大企業に対する禁止特約のついた債権を担保にして金融機関から融資を受けられるとの説明に対し、事実上、譲渡したら契約を打ちきると言われていたら、譲渡できないのではないか、とのことだった。なおこれに対しては、ご自身で、「むやみに禁止する特約の有効性」という論点にはなる、とも仰っていた。

 中小企業の金融の円滑化ということに対しては、むしろ、現在は担保にできない禁止特約のついた取引先に対する債権まで、銀行から追加担保として提供するよう要求されるのではないか、ということが以前から言われていたが、最近ではこういう意見は聞かない。物事にはメリットもあればデメリットもあるから、言っても仕方がないのだろう。弊害が多く出ればそれからまた考えればよいことなのかもしれない。

 石田教授は、構造が複雑と批判された後、法律は基本的な考え方を示すにとどめるべき、悪意、重過失者に対して対抗できなくなるとする規定にするとしても、承諾は解釈でわかるから書く必要はないし、破産手続等開始決定、差押えも規定は不要ではないか、との提案をされた。

 この改正提案の基本ラインは大阪弁護士会の提案によっている。議論していたころから、複雑すぎて使い勝手が悪いのではないか、という気がしていたが、複雑すぎる、との声が取り上げられることはなかった。今でも、この改正案に対しては、複雑すぎるのではないか、という感覚が離れない。

2013年7月31日水曜日

売買の瑕疵担保責任

民法(債権法)改正によって瑕疵概念がなくなると言われている。
実際中間試案では、民法565条及び570条の規律(代金減額請求、期間制限に関するものを除く)を改訂する提案がなされており、そこには「瑕疵」という言葉はでてこない。また、「隠れた」という要件もない。

それでは売主は何に対して責任を持つか、というと
「契約の趣旨に適合しないものであるときは」、「目的物の引渡しまたは代替物の引渡しによる履行の追完を請求することができる」とされており、売主が追完しないときは、買主は「代金の減額を請求することができる」とされている。
なお、代金減額の請求をするには、履行の追完をする権利及び契約の解除をする権利を放棄する意思表示と同時にしなければ効力を生じない、とされている。

「隠れた」を要件としない理由は、中間試案の概要によれば、「隠れた」の意味は買主が瑕疵の存在について善意無過失であることを意味するとされてきたが、引き渡された目的物が契約に適合しないにもかかわらず、買主に過失があることによって、救済を一律に否定すべきではないから、とされている。

なお、売買の瑕疵担保責任は法定責任が債務不履行責任か、について道垣内教授は、法定責任説に立つ人は、この中間試案を見ても法定責任だと主張することが可能であろう、とされる。

契約に適合するとはどういうことか。物理的には「種類、品質及び数量が当該契約の趣旨に適合するもの」であり、権利については当該契約の趣旨に適合しない他人の地上権等の負担、法令の制限がないこと、となっている。

「当該契約」とは何か、について道垣内教授は以下の例を挙げられた。
住宅を建築しようとして土地を購入したところ、住宅を建築するには問題がないが、マンションを建築には適さない土壌であることが判明した。「当該契約」は住宅を建築することを目的とした売買であるから、売主は契約に適合した土地を引渡したことになるのか?

これについては、契約の解釈として、将来もマンション等大型の建築物を建てるつもりはなく、住宅が問題なく建築できればよいという売買なのか、将来マンション業者に転売することもありうるとした売買だったのか、によって結論が違うだろう、とのことだった。

内田貴先生は、代金減額と追完、損害賠償が両立しない理由として、以下の例を挙げられた。
骨董品の机を購入したら、脚にひびが入っていることがわかり、重いものを載せられないことがわかった。この状態で10万円は高いが、5万円なら妥当と考え、5万円の減額を求めた。この場合、「脚にひびが入った机」の妥当な価格を5万円と考えて処理したのだから、5万円を受け取った後修理や追完の請求をするのはおかしい。
なお、代金減額請求権は形成権だとされている。

これを形成権とすることについては、買主が価格5万円が妥当だと思ったが客観的には価格6万円が妥当だったとき、5万円の減額請求の意思表示で形成される権利は何か、との指摘がなされている。

また、大阪弁護士会からは、追完請求と減額請求の選択的な請求を封じられるのはなぜかとの疑問がだされている。



2013年7月30日火曜日

請負 仕事が完成しなかった場合の報酬請求権・費用償還請求権について

請負とは一方が仕事の完成を約束し、相手方はその結果に対して報酬を支払うことを約する契約である(民法632)。だから、原則として仕事が完成しなければ報酬の請求はできない。ただし、注文者に帰責事由があって履行不能となった場合には、請負人は残債務を免れ、請負代金を請求することができる(民法536条2項)。また、仕事を完成していなくても、仕事の成果が可分であり、その成果を受け取ることが注文者にとって利益がある場合には、請負人は既にした仕事の報酬を請求することができるとするのが判例法理だとされている。

中間試案では、仕事が可分であり、受け取ることが注文者にとって利益がある場合には既にした仕事の報酬を受け取ることができるという判例法理を明文化するとの提案がなされている。
これについては異論はないと思われる。

しかし、中間試案はこれにとどまらず、仕事が完成しなかった理由が、「請負人が仕事を完成することができなくなったことが、請負人が仕事を完成するために必要な行為を注文者がしなかったことによるものであるとき」にも請負人は既にした仕事の報酬を受取ることができる、とされている。仕事が可分でもなく、受け取ることが注文者の利益にならない場合であっても、既にした仕事の報酬の請求ができる、というのがその提案である。

日本語の語感として、「しなかったことによるもの」と言うのが、「できるけれどしなかった」という意味に聞こえるため、一読すると問題がなさそうに思える。
しかし、中間試案の概要を読めば、この規定は、注文者の帰責性を問わず、既にした仕事の報酬の請求権を認める規定とされている。例としては、注文者が材料を提供することや、目的物を適切に保存することなど、とされている。

つまり、契約において注文者が材料を調達する、となっている場合に、地震が起きて注文者が材料の調達ができなくなり、請負人が仕事を完成できなくなったら、注文者はそこまでの仕事の報酬を支払い、価値のない未完成品を受け取らなければならない、建築中に地震が起きて建てかけの建物が壊れて完成ができなくなた場合に、注文者がそこまでの報酬を払わなければならない、ということである。

請負契約では仕事の完成を約しているのに、なぜ注文者は未完成の価値のない仕事に報酬を払わないといけないといけないのか、ということに対して、中間試案概要では、不能の原因が注文者の支配領域で起きたから、とされている。
しかし、これでは請負というより、雇用に近いのではないか?

これに対し、請負とは仕事の完成を約束し、完成して初めて報酬が請求できるものであるということから考えると、請負人は、不可抗力で材料が調達できないリスクも引き受けているのではないか、注文者に帰責事由なく完成できなくなったのであれば、報酬の請求は認められないのではないか、という考え方もある。大阪弁護士会の意見はこちらである。

大阪弁護士会を含む後者の意見の方が現在の請負の法理と連続性があるのではないか。いずれが危険を負担するかは立法で決めたらそうなるのであるとしても、危険を負担するものを逆転させるような立法は、蓄積された判例法理を明文化するという改正の目的からさらにもう一歩踏み出してしまっているように思われる。


2013年5月21日火曜日

民法の透明化 事情変更の法理

事情変更の法理については、規定を置くことについて弁護士からの反対意見が多い。
事情変更の法理とは、契約の締結後に、その契約の前提となっていた事情に変更が生じた場合において、契約の解除(改訂まで認めるかについてはさらに意見が別れる)を認めるというものである。解除の場合は、請求をされたときに抗弁として、改訂の場合には、防御としてだけでなく、改訂を求める側から請求をすることも考えられる。

規定を置くことの批判の理由として、この法理は極めて例外的なケースにのみ適用されるものであるのに、明文規定を置くことで濫用されるおそれがある、また規定を置くことでこの法理の適用が認められやすくなれば、契約の拘束力を弱めることになる、改訂を認める場合には裁判所が契約内容の変更を自由にできるようになる、ということが考えられる。
その他、規定を置くことで裁判所の柔軟な判断を阻害する、ということも挙げられているが、これは規定を置く場合よりももっと自由に裁判所に契約内容の改訂を認めるべきだ、という考え方で、他の批判理由が法理を適用して契約の内容を変更することに慎重であるべきとしているのとは反対の立場からの批判と思われる。

批判に対する内田先生の反論は以下のようなものだった。
1 事情変更の法理を適用する場面は、契約時には想定されていなかった事態が生じている場面であり、契約において合意でそのような事態に対応した内容を定めることを期待できない。契約の拘束力をそのような事態においてまで認めるのが妥当か。
2 法理の存在は法律家は知っているのであり、今でも使えるのであるから、規定を置いたから濫用されるというものではない。濫用をいう人は、法律家でない人が本人訴訟をする場合に、規定を見て初めてこの法理の存在を知って使うのがいけないと言っているのではないか、そうであれば民法の透明化、市民にわかりやすい民法という点から規定はおくべきではないか。
3 規定がない方が柔軟な処理ができるというのは、裁判官に対する絶大な信頼にもとづいたものだ。また、日本民法を準拠法とするとの合意のもとで国際仲裁をした場合、日本の裁判官以外の人が仲裁人となるが、そのときにこの法理を使えるのか
4 大審院判例でこの法理にもとづいて契約の解除を認めたものがある、最高裁平成9年7月1日判決は、この法理の要件を述べているので、ルールが未確立ということはない。
5 比較法的には、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、ロシア、中国最高人民法院司法解釈、台湾、アメリカ(UCC 第二リステイトメント) 等で認められている。なお、中国最高人民法院司法解釈においては、経済変動によるもの(商業上のリスク)を適用から除いている。

さて、どう考えるのか。
 濫用のおそれ、というのは、弁護士(または当事者)ではなく、規定を置くことで裁判官がこの法理を使うことの心理的なハードルが低くなる、ということではないだろうか。他方、裁判所に契約内容をお任せする、として取り引き慣行にそれほど通じていない裁判所が妥当な契約内容を策定できるのだろうか。
 解除については、改正によって、当事者の帰責事由の有無ではなく、契約の拘束力からの解放の必要性の有無で判断することになるとすると、事情変更があったような場合は、この法理があろうとなかろうとたいして変わらないのではないかと思われる。そうすると、裁判所が契約の内容を自由に変更することを認める、ということにこの規定を置く意味があることになる。
 解除だけではあまり意味のない規定となり、改訂を認めると裁判所に過度な負担を負わせることになるうえ、裁判所にそれをする能力があるか、ということであれば、私は、規定を置く必要はないと思う。





2013年5月17日金曜日

民法改正とCISG

 今回の民法改正に対する批判の中に、日本の民法なのに国際潮流を気にする必要があるのか、というものがある。
 その一方で、日本国内での売買の対象物に欠陥があり、その取り引き責任を順に遡れば数回で国際取り引きにたどり着く、このときに、取り引きに関する規律が国内取り引きと国際取り引きで大きな違いがあってもよいのか、との問題提起もある。
 衣類のラベルを見るとほとんど中国、ベトナム製、機械になると、各部品の製造地、組立地などかなり多国籍になるのではないだろうか。
 学生のころ法哲学の授業で、私達はなにも知らない、鉛筆1本がどのようにして作られているかさえ知らない、ということを聞いた。そのときは山で木が育ち、鉛筆の芯の材料を掘削する様子を想像してみたのだが、日本の山を想像していた私は何も知らなかったのだ。
 日本の民法を作るときに外国の法律を真似る必要はない。ただ、取り引きをする人にとって使い勝手のよいもの、優れているものを目指すべきだ。その考慮要素の一つに外国法があっても批判されるべきではないのではないだろうか。
 
 

内田貴先生の講演(2013年5月15日)について1

 5月15日、大阪弁護士会で内田貴先生による民法(債権関係)改正についての講演会が開催された。民法改正の中間試案についての説明である。

 今回取り上げられたテーマは、民法の現代化にかかるもの(消滅時効、法定利率、債務不履行による損害賠償ー金銭債務の特則、保証、信義則等の適用にあたっての考慮要素、約款)、及びわかりやすい民法とするためのもの(暴利行為、錯誤、損害賠償の範囲、契約交渉の不当破棄、契約締結過程の情報提供義務、事情変更の法理、不安の抗弁権)と多岐にわたった。
 
 消滅時効の現代化とは、職業別の短期消滅時効の規定が現時点で合理性を欠いているので廃止する、消滅時効10年を短期化する、ということである。
 職業別の短期消滅時効の廃止についてはあまり異論はないと思われるが、民事の消滅時効10年は現代社会にそぐわないほど短いのだろうか?
 個人は弁済の証拠を10年も保管していない、支払った後10年も領収書を保管しているか、と仰るのだが、企業が大量の書類を長期間保管するのが負担だとしても、個人は大切な書類は捨てないし、捨てていなければ持っていることが多いと思う。誰のための現代化だろう?
  時効の中断の用語を更新に変更することは、わかりやすい民法の方に分類される事項だろう。
  時効の停止事由に、協議を行うとの書面による合意があったときは、合意から1年、協議の拒絶が書面で通知されてから6ヶ月は時効が完成しない、というのが加わった。
  不法行為の消滅時効の長期20年を除斥期間ではなく時効とする。20年を除斥期間とした最高裁判例を読んだときの衝撃は20年ほどたった今でも覚えている。除斥期間の壁にはばまれてきたのは戦争による被害の補償を求める裁判がほとんどだったのではないだろうか。今更、との感慨はあるが、今からでも立法によってきちんと手当をしておくことには賛成する。

 法定利率の現代化とは、現在の民事法定利率5%が高いので引き下げる、というものである。銀行に預金するより 有利な率なので、訴訟の引き伸ばしがはかられている、と仰る。私の知るかぎり、遅延損害金を多く手にするために訴訟を引き伸ばした例はない。周囲の弁護士に聞いてもそんなことは見たことがない、という答えなのだが、内田先生は弁護士の中には遅延損害金のために訴訟が引き伸ばされている例を知っているという人がいた、とのこと。それが本当だとしても、そんな稀なケースのために法律を改正するとは思えない。おそらく別の理由があるのだろう。

 金銭債務の特則の現代化とは、法定利率を超えた損害を求められるようにすることと、不可抗力免責を認める、ということである。法定利率を引き下げることへの手当と、大規模な送金障害への対応だろう。メガバンクの送金システムのプログラムの不具合というのも不可抗力となって、着金が遅れたことの損害は債権者が負担するのだろうか?