2013年7月31日水曜日

売買の瑕疵担保責任

民法(債権法)改正によって瑕疵概念がなくなると言われている。
実際中間試案では、民法565条及び570条の規律(代金減額請求、期間制限に関するものを除く)を改訂する提案がなされており、そこには「瑕疵」という言葉はでてこない。また、「隠れた」という要件もない。

それでは売主は何に対して責任を持つか、というと
「契約の趣旨に適合しないものであるときは」、「目的物の引渡しまたは代替物の引渡しによる履行の追完を請求することができる」とされており、売主が追完しないときは、買主は「代金の減額を請求することができる」とされている。
なお、代金減額の請求をするには、履行の追完をする権利及び契約の解除をする権利を放棄する意思表示と同時にしなければ効力を生じない、とされている。

「隠れた」を要件としない理由は、中間試案の概要によれば、「隠れた」の意味は買主が瑕疵の存在について善意無過失であることを意味するとされてきたが、引き渡された目的物が契約に適合しないにもかかわらず、買主に過失があることによって、救済を一律に否定すべきではないから、とされている。

なお、売買の瑕疵担保責任は法定責任が債務不履行責任か、について道垣内教授は、法定責任説に立つ人は、この中間試案を見ても法定責任だと主張することが可能であろう、とされる。

契約に適合するとはどういうことか。物理的には「種類、品質及び数量が当該契約の趣旨に適合するもの」であり、権利については当該契約の趣旨に適合しない他人の地上権等の負担、法令の制限がないこと、となっている。

「当該契約」とは何か、について道垣内教授は以下の例を挙げられた。
住宅を建築しようとして土地を購入したところ、住宅を建築するには問題がないが、マンションを建築には適さない土壌であることが判明した。「当該契約」は住宅を建築することを目的とした売買であるから、売主は契約に適合した土地を引渡したことになるのか?

これについては、契約の解釈として、将来もマンション等大型の建築物を建てるつもりはなく、住宅が問題なく建築できればよいという売買なのか、将来マンション業者に転売することもありうるとした売買だったのか、によって結論が違うだろう、とのことだった。

内田貴先生は、代金減額と追完、損害賠償が両立しない理由として、以下の例を挙げられた。
骨董品の机を購入したら、脚にひびが入っていることがわかり、重いものを載せられないことがわかった。この状態で10万円は高いが、5万円なら妥当と考え、5万円の減額を求めた。この場合、「脚にひびが入った机」の妥当な価格を5万円と考えて処理したのだから、5万円を受け取った後修理や追完の請求をするのはおかしい。
なお、代金減額請求権は形成権だとされている。

これを形成権とすることについては、買主が価格5万円が妥当だと思ったが客観的には価格6万円が妥当だったとき、5万円の減額請求の意思表示で形成される権利は何か、との指摘がなされている。

また、大阪弁護士会からは、追完請求と減額請求の選択的な請求を封じられるのはなぜかとの疑問がだされている。



2013年7月30日火曜日

請負 仕事が完成しなかった場合の報酬請求権・費用償還請求権について

請負とは一方が仕事の完成を約束し、相手方はその結果に対して報酬を支払うことを約する契約である(民法632)。だから、原則として仕事が完成しなければ報酬の請求はできない。ただし、注文者に帰責事由があって履行不能となった場合には、請負人は残債務を免れ、請負代金を請求することができる(民法536条2項)。また、仕事を完成していなくても、仕事の成果が可分であり、その成果を受け取ることが注文者にとって利益がある場合には、請負人は既にした仕事の報酬を請求することができるとするのが判例法理だとされている。

中間試案では、仕事が可分であり、受け取ることが注文者にとって利益がある場合には既にした仕事の報酬を受け取ることができるという判例法理を明文化するとの提案がなされている。
これについては異論はないと思われる。

しかし、中間試案はこれにとどまらず、仕事が完成しなかった理由が、「請負人が仕事を完成することができなくなったことが、請負人が仕事を完成するために必要な行為を注文者がしなかったことによるものであるとき」にも請負人は既にした仕事の報酬を受取ることができる、とされている。仕事が可分でもなく、受け取ることが注文者の利益にならない場合であっても、既にした仕事の報酬の請求ができる、というのがその提案である。

日本語の語感として、「しなかったことによるもの」と言うのが、「できるけれどしなかった」という意味に聞こえるため、一読すると問題がなさそうに思える。
しかし、中間試案の概要を読めば、この規定は、注文者の帰責性を問わず、既にした仕事の報酬の請求権を認める規定とされている。例としては、注文者が材料を提供することや、目的物を適切に保存することなど、とされている。

つまり、契約において注文者が材料を調達する、となっている場合に、地震が起きて注文者が材料の調達ができなくなり、請負人が仕事を完成できなくなったら、注文者はそこまでの仕事の報酬を支払い、価値のない未完成品を受け取らなければならない、建築中に地震が起きて建てかけの建物が壊れて完成ができなくなた場合に、注文者がそこまでの報酬を払わなければならない、ということである。

請負契約では仕事の完成を約しているのに、なぜ注文者は未完成の価値のない仕事に報酬を払わないといけないといけないのか、ということに対して、中間試案概要では、不能の原因が注文者の支配領域で起きたから、とされている。
しかし、これでは請負というより、雇用に近いのではないか?

これに対し、請負とは仕事の完成を約束し、完成して初めて報酬が請求できるものであるということから考えると、請負人は、不可抗力で材料が調達できないリスクも引き受けているのではないか、注文者に帰責事由なく完成できなくなったのであれば、報酬の請求は認められないのではないか、という考え方もある。大阪弁護士会の意見はこちらである。

大阪弁護士会を含む後者の意見の方が現在の請負の法理と連続性があるのではないか。いずれが危険を負担するかは立法で決めたらそうなるのであるとしても、危険を負担するものを逆転させるような立法は、蓄積された判例法理を明文化するという改正の目的からさらにもう一歩踏み出してしまっているように思われる。