2013年8月15日木曜日

債権譲渡 対抗要件

民法では、指名債権譲渡の対抗要件は、債務者への通知または債務者の承諾で、通知または承諾に確定日付のある証書によらなければ第三者に対抗することができない、とされている。

確定日付のある証書を作成しても、それが債務者に到達した時点が証明困難であるのに、到達の先後で優劣が決まるということと、債務者をインフォメーションセンターとする制度とされているが、債務者は回答義務を負っていないため、現実には公示機能がないのではないか、というのが改正の理由とされている。

なお、母法であるフランス法では、公務員による送達が前提とされており、到達時の証明ができるようになっていたが、立法時の日本の事情により公務員による送達の制度は作られなかったとのことである。

改正案では、甲案と乙案が提示されている。
甲案は、金銭債権の譲渡については第三者対抗要件として登記を要求し、金銭債権以外の債権の譲渡については、譲渡の事実を証する書面に確定日付を付すことを要求する案である。

債務者に対する権利行使要件としては、登記の内容を証する書面または、確定日付を付した譲渡書面を交付して通知、または、譲渡人から債務者への通知、とされている。

乙案は、債務者の承諾を第三者対抗要件とはしない案である。承諾を強いられる負担がなくなるとの説明がなされている。

さらに別案として、確定日付ある譲渡証書を作成し、その先後で優先関係を決するという案もある。これはドイツ法にならうものであり、現行法で公示機能が不十分であることを踏まえ、債権譲渡について公示することを断念するものと説明されている。
先後関係についての証明が容易であり、すっきりとはしている。難点は、現在いくらかでもある公示機能がまったくなくなることである。

登記と通知の両制度が併存した場合、いずれが優先するのか、という問題が生じる。登記が優先しないと、登記したときに譲渡されているかどうかわからないので登記をする意味がない。しかし、登記が優先するとすると、通知では不安であって意味がない。併存すると登記も通知も使いにくいということになる。

甲案について、道垣内教授は、登記制度を作るのであれば、登記に一元化すべきであり、通知による権利行使要件を残すべきではないと主張される。

これに対し、元請けの一括承諾により、下請けが元請けに対する債権を譲渡するという実務があり、登記に一元化すると登記の手間が煩雑であるとの反論があったが、道垣内教授からは、登記の手間に関してはそれほどの問題ではないとの再反論があった。

いずれにせよ、個人の債権譲渡の登記制度の構築という問題がクリアされなければ、登記せよとのルールは作れない。
登記制度のポイントとしては、オンラインによる登記申請、債権特定のシステム(極度額、担保権)、アクセスの容易さ、が挙げられている。


2013年8月14日水曜日

債権譲渡禁止特約

現行民法では、債権譲渡禁止特約があれば債権の譲渡はできないが、禁止特約は善意の第三者に対抗できない、とされている。

改正提案では、債権譲渡禁止特約があっても、一定の制限があるほか、債権譲渡は有効である、とされている。
一定の制限とは、譲受人が悪意、重過失である場合は、債務者は譲受人に対して履行を拒絶し、譲渡人に対して履行をし、その履行をもって債権の消滅を譲受人に対抗できる、とするものである。

ただし、さらに、一定の事由がある場合には、譲受人が悪意、重過失であっても債務者は特約をもって対抗できない、とされている。
一定の事由とは、債務者が承諾した場合、債務者が履行遅滞にあり催告をしても履行しなかった場合、譲受人が第三者対抗要件を備えた後に譲渡人に破産手続開始等の決定があった場合、譲受人が第三者対抗要件を備えた後に譲渡人の債権者が当該債権を差し押さえた場合、とされている。
 
 現行法に比べてかなり複雑である。

 この改正案に対して、石田教授は、
①ルールの構造が複雑で理解が難しい、
②弁済の相手方を固定するということだけでよいのか、
③相手方固定の利益は、履行遅滞にあってもなくても変わらない、むしろ遅滞のときに相手方を固定する利益があるのではないか、と批判される。

 また、道垣内教授は、改正案は最高裁判決の延長線上にある、としつつ、この提案は本当に中小企業の金融の円滑化に資するのか、民法343条は譲渡できないものは質権の目的とならないとしているが、この規定も併せて議論をすべきではないのか、との意見を出された。

 道垣内教授が、中小企業の金融の円滑化に資するのか、との疑問を提示された理由は、債権譲渡を有効として扱うと中小企業が取引先の大企業に対する禁止特約のついた債権を担保にして金融機関から融資を受けられるとの説明に対し、事実上、譲渡したら契約を打ちきると言われていたら、譲渡できないのではないか、とのことだった。なおこれに対しては、ご自身で、「むやみに禁止する特約の有効性」という論点にはなる、とも仰っていた。

 中小企業の金融の円滑化ということに対しては、むしろ、現在は担保にできない禁止特約のついた取引先に対する債権まで、銀行から追加担保として提供するよう要求されるのではないか、ということが以前から言われていたが、最近ではこういう意見は聞かない。物事にはメリットもあればデメリットもあるから、言っても仕方がないのだろう。弊害が多く出ればそれからまた考えればよいことなのかもしれない。

 石田教授は、構造が複雑と批判された後、法律は基本的な考え方を示すにとどめるべき、悪意、重過失者に対して対抗できなくなるとする規定にするとしても、承諾は解釈でわかるから書く必要はないし、破産手続等開始決定、差押えも規定は不要ではないか、との提案をされた。

 この改正提案の基本ラインは大阪弁護士会の提案によっている。議論していたころから、複雑すぎて使い勝手が悪いのではないか、という気がしていたが、複雑すぎる、との声が取り上げられることはなかった。今でも、この改正案に対しては、複雑すぎるのではないか、という感覚が離れない。