2013年7月30日火曜日

請負 仕事が完成しなかった場合の報酬請求権・費用償還請求権について

請負とは一方が仕事の完成を約束し、相手方はその結果に対して報酬を支払うことを約する契約である(民法632)。だから、原則として仕事が完成しなければ報酬の請求はできない。ただし、注文者に帰責事由があって履行不能となった場合には、請負人は残債務を免れ、請負代金を請求することができる(民法536条2項)。また、仕事を完成していなくても、仕事の成果が可分であり、その成果を受け取ることが注文者にとって利益がある場合には、請負人は既にした仕事の報酬を請求することができるとするのが判例法理だとされている。

中間試案では、仕事が可分であり、受け取ることが注文者にとって利益がある場合には既にした仕事の報酬を受け取ることができるという判例法理を明文化するとの提案がなされている。
これについては異論はないと思われる。

しかし、中間試案はこれにとどまらず、仕事が完成しなかった理由が、「請負人が仕事を完成することができなくなったことが、請負人が仕事を完成するために必要な行為を注文者がしなかったことによるものであるとき」にも請負人は既にした仕事の報酬を受取ることができる、とされている。仕事が可分でもなく、受け取ることが注文者の利益にならない場合であっても、既にした仕事の報酬の請求ができる、というのがその提案である。

日本語の語感として、「しなかったことによるもの」と言うのが、「できるけれどしなかった」という意味に聞こえるため、一読すると問題がなさそうに思える。
しかし、中間試案の概要を読めば、この規定は、注文者の帰責性を問わず、既にした仕事の報酬の請求権を認める規定とされている。例としては、注文者が材料を提供することや、目的物を適切に保存することなど、とされている。

つまり、契約において注文者が材料を調達する、となっている場合に、地震が起きて注文者が材料の調達ができなくなり、請負人が仕事を完成できなくなったら、注文者はそこまでの仕事の報酬を支払い、価値のない未完成品を受け取らなければならない、建築中に地震が起きて建てかけの建物が壊れて完成ができなくなた場合に、注文者がそこまでの報酬を払わなければならない、ということである。

請負契約では仕事の完成を約しているのに、なぜ注文者は未完成の価値のない仕事に報酬を払わないといけないといけないのか、ということに対して、中間試案概要では、不能の原因が注文者の支配領域で起きたから、とされている。
しかし、これでは請負というより、雇用に近いのではないか?

これに対し、請負とは仕事の完成を約束し、完成して初めて報酬が請求できるものであるということから考えると、請負人は、不可抗力で材料が調達できないリスクも引き受けているのではないか、注文者に帰責事由なく完成できなくなったのであれば、報酬の請求は認められないのではないか、という考え方もある。大阪弁護士会の意見はこちらである。

大阪弁護士会を含む後者の意見の方が現在の請負の法理と連続性があるのではないか。いずれが危険を負担するかは立法で決めたらそうなるのであるとしても、危険を負担するものを逆転させるような立法は、蓄積された判例法理を明文化するという改正の目的からさらにもう一歩踏み出してしまっているように思われる。


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