2013年8月14日水曜日

債権譲渡禁止特約

現行民法では、債権譲渡禁止特約があれば債権の譲渡はできないが、禁止特約は善意の第三者に対抗できない、とされている。

改正提案では、債権譲渡禁止特約があっても、一定の制限があるほか、債権譲渡は有効である、とされている。
一定の制限とは、譲受人が悪意、重過失である場合は、債務者は譲受人に対して履行を拒絶し、譲渡人に対して履行をし、その履行をもって債権の消滅を譲受人に対抗できる、とするものである。

ただし、さらに、一定の事由がある場合には、譲受人が悪意、重過失であっても債務者は特約をもって対抗できない、とされている。
一定の事由とは、債務者が承諾した場合、債務者が履行遅滞にあり催告をしても履行しなかった場合、譲受人が第三者対抗要件を備えた後に譲渡人に破産手続開始等の決定があった場合、譲受人が第三者対抗要件を備えた後に譲渡人の債権者が当該債権を差し押さえた場合、とされている。
 
 現行法に比べてかなり複雑である。

 この改正案に対して、石田教授は、
①ルールの構造が複雑で理解が難しい、
②弁済の相手方を固定するということだけでよいのか、
③相手方固定の利益は、履行遅滞にあってもなくても変わらない、むしろ遅滞のときに相手方を固定する利益があるのではないか、と批判される。

 また、道垣内教授は、改正案は最高裁判決の延長線上にある、としつつ、この提案は本当に中小企業の金融の円滑化に資するのか、民法343条は譲渡できないものは質権の目的とならないとしているが、この規定も併せて議論をすべきではないのか、との意見を出された。

 道垣内教授が、中小企業の金融の円滑化に資するのか、との疑問を提示された理由は、債権譲渡を有効として扱うと中小企業が取引先の大企業に対する禁止特約のついた債権を担保にして金融機関から融資を受けられるとの説明に対し、事実上、譲渡したら契約を打ちきると言われていたら、譲渡できないのではないか、とのことだった。なおこれに対しては、ご自身で、「むやみに禁止する特約の有効性」という論点にはなる、とも仰っていた。

 中小企業の金融の円滑化ということに対しては、むしろ、現在は担保にできない禁止特約のついた取引先に対する債権まで、銀行から追加担保として提供するよう要求されるのではないか、ということが以前から言われていたが、最近ではこういう意見は聞かない。物事にはメリットもあればデメリットもあるから、言っても仕方がないのだろう。弊害が多く出ればそれからまた考えればよいことなのかもしれない。

 石田教授は、構造が複雑と批判された後、法律は基本的な考え方を示すにとどめるべき、悪意、重過失者に対して対抗できなくなるとする規定にするとしても、承諾は解釈でわかるから書く必要はないし、破産手続等開始決定、差押えも規定は不要ではないか、との提案をされた。

 この改正提案の基本ラインは大阪弁護士会の提案によっている。議論していたころから、複雑すぎて使い勝手が悪いのではないか、という気がしていたが、複雑すぎる、との声が取り上げられることはなかった。今でも、この改正案に対しては、複雑すぎるのではないか、という感覚が離れない。

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